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サムスン、未来に向けた、プロダクトライフサイクルのイノベーション ーCES2022レポート1 | IoT NEWS

CES2022のキーノートは、サムスンで幕開けした。2006年にテレビ販売シェア世界1位(※)になってから、家電業界のリーダーとなったサムスンは、まさにCESの中心的存在になっている。

CESはその年のテクノロジートレンドを可視化する場と言われているが、この10数年はサムスンの発表が大きく影響を与えている。2011年のスマートテレビ、2015年のIoT、2020年のパーソナライズなど、テクノロジーが生み出す新たなトレンド領域やキーワード、テクノロジーがもたらす価値をサムスンは発信してきた。

※2021年も含め16年連続TV販売シェア世界1位。(英調査会社オムディア調べ)

その年のCESの顔である、プレショー キーノートで、サムスンの副会長兼共同CEO韓宗熙(ハン・ジョンヒ)氏が登壇し、2022年のテクノロジートレンドを伝えた。

サムスンは、2015年、2020年に続いての登壇だ。

コロナ禍の直前に開催されたCES2020で、サムスンが発表したキーワードの1つが「Personalized Experience」で、一人ひとりに最適化していくことがテクノロジーの価値と位置づけていた。実際に、様々な製品に状況を把握するセンサーや、傾向などから最適化するAIが搭載され、「個人個人への勝手に最適化」の流れは明らかで、現在もそのベクトルで進化が進んでいる。

しかし、CES2020の直後に世界の状況は一変した。CES2021はコロナによってオンラインイベントとなり、発信された内容も「個別最適」よりも環境や格差問題等の「社会課題」を解決することに企業として責任を負うことが最重要という流れとなり、進化の方向性に大きな転換が求められるようになった。

このような中、サムスンは「Together for tomorrow」というビジョンを掲げ、共にサステナブルな未来を構築していこう、と世界に呼び掛けた。このビジョンの核となるコンセプトが「everyday sustainability」で、生活者が個別最適化された、快適なくらしの中で、環境負荷の低減が成されていく、サステナビリティが製品体験の一部になるという考え方だ。

サステナビリティへの取り組み

例えば、強化されたソーラー・セル・リモートは、従来の昼夜問わず充電できるソーラーパネルに加えて、Wi-Fiルーターの無線周波エネルギー(RF Energy)から充電するRF Energy harvestingに対応している。リモコンは微弱電力で動作するため、ソーラー・セル・リモートにはリチウムイオン電池も搭載しておらず、このようなリモコンを多くの自社製品に同梱することで、埋立地から2億個以上の電池を無くすことを目標にしているという。

ユーザーは電池交換はもちろん、充電の手間もなく、今まで以上に快適になる。さらにテレビやスマホの充電器の待機電力をゼロにする機能も新たな製品に搭載されており、2025年までに自社製品の全てを待機電力ゼロになることを実現していくとのことだ。

サムスンはこれまでも製品を梱包していた段ボールを、キャットハウスやサイドテーブルに加工して利用し続けられる仕組みや、機種変更して使わなくなったスマホを赤ちゃんの見守りツールとして活用するようなアップサイクルを提案していた。

既に2021年に発売されたテレビの梱包素材は全てリサイクル素材になっていたが、今後はテレビ以外の製品含めて、梱包材の発泡スチロール、ボックスホルダー等もリサイクル素材に変えていく。

また製品のマテリアルについてもリサイクル素材の採用を促進している。これまでにビスポーク冷蔵庫(ユーザーがビルトイン家電のようにカスタマイズしてキッチンを仕上げることができる冷蔵庫)、ワイヤレスイヤホン、QLEDテレビにリサイクル素材を採用しているが、2025年までにリサイクル素材の使用をモバイル機器と家電製品のすべてに拡大することを目指している。

さらに製品の生産サイクル全体における二酸化炭素排出量の削減努力も進めていて、自社製メモリチップは、約70万トンの二酸化炭素排出量の削減に貢献している。

 E-waste(電気電子機器廃棄物:使用済みのテレビ、パソコン等の電気電子機器であって中古利用されずに分解・リサイクル又は処分されるもの)も業界の大きな課題であるため、サムスンは2009年以来、日本の年間電子廃棄物量の約2倍となる500万トン以上のE-wasteを回収してきたという。

これらのリサイクル含めた有効活用も促進しなくてはならい状況だ。

このような背景踏まえ、サムスンではスマホ等のモバイル製品領域において、ライフサイクルを通してデバイスの環境フットプリントを最小化するために作られた持続可能性プラットフォーム「Galaxy for the Planet」を昨年立ち上げたとのことだ。

生産から物流、ユーザーの利用、回収、廃棄というプロダクトライフサイクル全体で製品が環境に及ぼす影響を企業として責任を持たなくてはならない、そんなメッセージが強く伝わってきた。

さらにサムスンは新しいエコシステムの創出にもチャレンジをはじめている。

自社だけでは実現できない地球環境への貢献を、様々な業界、企業と共に促進していこうという働きかけである。

その1つがパタゴニアとのコラボレーションだ。パタゴニアは長年環境への配慮をビジョンに掲げて製品開発をしているが、プロダクトライフサイクル全体での環境貢献まではカバーができていなかったという。

自社だけでは対応できない領域があるためだ。その1つの課題が洗濯時に発生するマイクロプラスチックで、これが洗濯機から排出され水路に流入することが環境問題になっている。サムスンの新しい洗濯機では、水路に流入するマイクロプラスチックを最小限にする仕組みを搭載し、パタゴニア製品のライフサイクル全体での環境フットプリントを最小化することに貢献しているとのことだ。

コネクテッドな世界観

このようなコラボレーションの流れはサムスンには追い風になりそうだ。

CES2015で買収を発表したスマートホームの規格でもあるSmartThingsもここに来てその真価が発揮できそうな状況になってきた。SmartThingsはもともと異なるメーカーの機器同士でもスムーズに連携するために開発された規格であり、オープン化と共に活用が加速すると見られていたが規格の1つという位置づけが続いていた。

昨年、Zigbeeの後継と位置付けられているGoogle、Amazon、Appleの機器への対応するMatterが発表されたが、SmartThingsも既にMatter連携を発表しており、まさに国境やメーカーの壁を越えて、様々な機器がシームレスに連携する環境が整備された。今回発表されたサムスン Home Hubは、混在するサービスを統合し、ユーザーが容易に各機器をコントロールできるようにするためのものだ。

シームレスな環境整備と同時に各製品のコネクテッドは加速していかざる得ない状況になってきている。

それぞれのデバイスが相互に機能や状態を把握して生活者やロケーションへの個別最適を提供しつつ、社会全体として無駄なエネルギーを削減し、地球環境への貢献を継続するためには、個々のデバイスが繋がり、連携しなくてはならないためだ。

これは家電業界だけでなく、生活に必要なインフラを提供している企業、機器、サービス全てが関わることであり、企業はもちろん業界の壁を越えた連携がまさに求められる時代となった。

くらしの個別最適が進み、一人ひとりのWell-Beingが向上しながら、環境貢献や社会貢献も加速していく、これがサムスンの言う「everyday sustainability」ということなのだろう。

まさに否定できないコンセプトであり、多くの企業が繋がりながら実現していかなくてはならないテーマだ。実際サムスンは、環境に配慮した技術はオープンソース化すると共に、Home Connectivity Alliance(HCA)においても中心的な立場で、ブランドを超えたデバイス間のスムーズな相互連携の実現を推進している。

尚、サムスンからは様々な新製品も発表されている。キーノートで紹介されたものの中でいうと、どこにいても映画館のような体験ができる、軽量で持ち運び可能なスクリーンである「Freestyle」は用途も多様で魅力的なデバイスだ。

スピーカーやOS、アプリを搭載し、モバイルバッテリーや電球のソケットにも対応しているため様々な場所で利用でき、100インチまで投影可能という。まさにどんなライフスタイルにも対応できる新コンセプトのプロジェクターだ。

 

ゲーム体験と家電デザインのカスタマイズも進化

クラウドゲームやコンソールゲームを一括で管理し、最適なプレイ環境を提供するサムスン Gaming Hubと55インチの湾曲したゲーミングスクリーンとなるOdyssey Arkはゲーム体験を大きく進化させるものだ。

若年層はゲームの中で繋がり、ゲームの中で成長しているという事実も踏まえ、そんなライフスタイルに最適化したソリューションになっている。

尚、サムスン Gaming Hubは既存スマートテレビにも対応しており、今年中のローンチとなる見込みとのことだ。クラウドゲーミングプラットフォームはGoogle、Appleなど含め、既に複数のサービスが存在していることもあり、グローバルでどのような競争が起こるのか興味深い。

家電のデザインをカスタマイズできる「Bespoke」は、数年前から継続しているサムスンのユニークネスでもある。冷蔵庫やテレビから始まったが、食洗器やレンジ、掃除機、洗濯機もBespoke対応を発表した。

Bespokeは、個別最適化ということ以上に、自分らしい生活を送るための手段として多くの人に受け入れられているという。さらにマーケットボリュームが拡大しつつあるZ世代を中心とする若年層の自分らしさを追求したいという想いに応えることも踏まえ、今回「YouMake Project」を発足した。

家電だけでなくスマートウォッチやスマートフォンなどのモバイルデバイスもカスタマイズできる。このプロジェクトは生活者が自分にとって最も重視したいことから製品を選び、カスタマイズすることで、デバイス全体でよりパーソナライズされたくらしを楽しめるようにする集大成と捉えられる。

個々のプロダクトにおいては、これまでのコンシューマーテクノロジーがもたらす個別最適化の進化は継続しつつも、環境貢献、社会貢献という大きな全体最適の実現を目指し、プロダクトライフライクル全体のイノベーションに取り組むことに正面から向き合っていく覚悟を感じたキーノートだった。

そして、地球のため、未来のための取組という大義を得たサムスンは、家電業界のみならず様々な領域において、今後さらに影響力が高まりそうだ。

吉田健太郎

未来事業創研 Founder

立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。

2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。

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