メシ通 Produced by RECRUIT ずっと作ってみたかった──「エビチリ」を自宅で料理したい人のための本格レシピ【四川料理のスゴい人】
エビチリを嫌いな人なんているのだろうか
四川料理のスゴい人、日本橋の中華料理店「リバヨンアタック」料理長・人長良次(ひとおさ・よしつぐ)さんに教わるレシピ。今回は定番のエビチリです。
──エビが好きです。今回はエビチリの作り方をお願いします。
人長:エビチリが嫌いっていう人、あんまりいないですもんね。お店のまかないで出すことがあるんですよ、いいことがあったときとか。そしたらスタッフのみんなも「ヨッシャ!」って喜ぶんです(笑)。
──中華のお仕事やってる人でも子供みたいに喜んじゃうんすね、エビチリ。さて、毎回驚きのチェックポイントがある人長さんのレシピですが、今回の見どころは以下の通りとなります。
エビのチリソース炒め(2人分)
具材
エビ油(無くても可。市販のエビ油でも代用可)
チリソース
まずは切りものから
人長:チリソースって、なんにでも合うんですよ。僕は家だと、鶏のモモ肉とか、イカとかに使います。それこそ冷凍のシーフードミックスも使えますよ。
──シーフードミックスにはエビのほかにイカとか貝とか入ってて、おもしろそうです。
人長:あと、玉子。中国には「玉子のチリソース炒め」っていう料理があるんです。まかないでもよく作るんですけど、それこそご飯のおかずにちょうどいいですよ。
──それはうまそうですね。
人長:そして今回の材料ですが、「殻付きのエビ」というところに意味があります。
──お手軽にいきたいときは「むきエビ」や「冷凍のボイルエビ」でもいいけど、生の殻付きのエビが望ましいという感じでいいですか。
人長:そうです。で、まずはエビちゃんをきれいにするところからいきたいんですが。
──エビちゃん。
人長:でも、まな板のことを考えると、ネギからいきますか。
──その順番だと、まな板を掃除しなくていいですもんね。
人長:いつものネギの芽切りです。ネギは1/3本です。リズムを決めるとケガしにくいですよ。ちなみに今日は5拍子で切ってます。
人長:エビチリはね、ネギがうまいんですよ、ホントに。
──え? エビはー?
人長:いやいや、エビもうまいんですけど、ネ・ギ・が・うまいんです(笑)。
人長:こういう副菜ってすごく大事なんですよね。だから、やっぱりネギは50gでお願いします。ネギは1/2本に変更です。
──あ、分量が増えちゃった(笑)。みなさん、ネギは半分使うそうです。
人長:そして次にエビをむきます。これは生のバナメイエビ、200gです。スーパーに売ってるエビで大丈夫です。今回は、できれば殻付きのエビを推奨します。ただ、エビの殻をむく作業が面倒な人は、もちろんむきエビや殻をむいてある冷凍のボイルエビを使っても大丈夫です。
人長:殻をプリッとむいていきます。今日は、むいた殻も使うんです。
──おお!
人長:なのでエビは殻付きのほうがいいんです。
──そんなん言われたら殻付きエビ買ってきますよね。
人長:(エビをむきながら)小さいころは近所の小川でザリガニを獲ってきたりしてましたね。
──食べてました?
人長:食べてません。でも最近、中国でザリガニ料理が流行ってるんですよね。
──エビの殻はぜんぶむくんですね。エビフライみたいに尻尾残すとかじゃなく。
人長:尻尾を残すと、いかにも「エビっ」て見た目になるんでいいんですけど、食べづらいなって。今回はこの殻を使いたいからこそ、尻尾までむきます。
──なるべく殻をたくさん使えるようにということですね。
──さすが手際いいですよね。やっぱり修行時代にかなりやらされたとか。
人長:いやそんなことないです。僕の性格ですかね? なんてのかな? 僕の生まれ持った? 変えられないクセ? きっちりしてるというか?
──おっ、いいねーいいよー(笑)。
人長:エビはサイズがデカいほうが食べごたえあるし、味もおいしいので。これくらいの大きさがいいですよね。
人長:背わたは取りましょう。どうしても口に残るんでね。竹串で掘る場所は、関節であればどこからでもいけます。
人長:でもこう、実際やってみると尻尾側からいくときれいに抜けやすいですね。
──すげー、長いー。
人長:おもしろくなってきちゃった。見て見て、ホラホラ。
──おおおおー! きれいに取れるー。
人長:これが残ってるとすごく食感が悪くなるんですよね。ジャリッとしたり。よし、これでもう切りものは全部です。
──エビの殻は尻尾までぜんぶむいて、背わたは尻尾側の関節から竹串で掘ってスーッと取る、と。
エビ油をつくる
(※この工程は、生の殻付きエビを使用していない場合は省略可)
人長:ここに、乾かしといたネギがあるんですね。いちばん外側のところ。さっき切ったネギの外側一枚を、前の晩に干しといたやつです。
人長:ネギとショウガの皮を使って、エビ油を作ります。要は、最後の仕上げに入れると、エビの香りがより引き立ってエビチリがおいしくなるというオイルです。通常は捨てちゃうはずのエビの殻を使って、よりおいしくなる工夫をします。
人長:お店だと、甘エビの頭とかを買えたりするんで、それを使ってます。ミソの味とかも乗るんで、おいしいんですよ。でも今回は、わざわざ有頭エビとかにしちゃうとお金もかかるんで、普通に殻付きのエビでいいです。でも、有頭エビがおウチにあるよって方はそれを使ってください。そのほうが、よりおいしいエビ油を作れますんで。
人長:サラダ油はぜんぶで100cc使いますが、まずは大さじ1くらい。で、火を点けます。
人長:エビの殻はぜんぶ入れちゃってください。こうやって炒り焼きします。
人長:いきなり油を全部使ってもいいですけど、少しずつのほうが香ばしさも出るんです。すでに軽く香ってきてますし。たくさんできちゃっても冷蔵庫に入れておけば1ヵ月くらい保ちます。その場合はできるだけ空気に触れないようにして、酸化させないことが大事です。
──すごくいい香りですね。エビの殻もエビっぽいピンクになってきてます。
人長:エビの水分が飛んで、香りが立ってきたら、ネギの外側とショウガの皮を入れますよ。
人長:せっかくエビが入っているのに、ショウガとネギをいっぱい入れすぎちゃうと、結局はショウガとネギの香りになっちゃうんです。
人長:エビの臭みを消すためなので、香味野菜は少量でいいです。エビの殻の1/3くらいでいいですね。
──エビの殻3、ショウガとネギ1で、3:1の割合ですね。
人長:焦げ目がついてきましたよね。ここまでいったら火を消して、残りの油を注いでください。で、弱火にしてコトコトと沸かす。
人長:水分あると油が跳ねるんで気をつけてください。ネギを乾かすのもそれが理由ですね。
──ネギ&ショウガが入るとまた、さっきとは香りが変わってきますね。
人長:エビの臭みを中和してくれるんですね。焦がしてはダメです。焦がすと焦げの香りになってしまいますので、焦げる手前で仕上げましょう。
──そのための弱火なんですね。
人長:そうそう。火が強いと香りが出る前に焦げてしまうんです。これくらいの弱火ですね。
人長:いい色になりましたね。これはいいよ……自分でも惚れ惚れしちゃう(笑)。
──ボウルに移してもまだジュワーッとし続けており、香ばしいエビのフレーバーが立ち上がっております。
人長:これは冷めるまで置いておきます。で、冷めたものがこちらですね。
──出た! 舐めていいですか。ぺろり。エビの香りがブーストされてすげえ。うーまい。まったく無意味にラーメンの上に流したいですね。
エビの下ごしらえ、奥義「チャン」とは
(エビ洗い用)
チャン
人長:エビの下処理です。これは冷凍のボイルエビの場合はやらなくていいです。まずこのエビちゃんを洗います。
──エビちゃん。
人長:エビちゃんをですね。お塩ひとつまみと片栗粉もひとつまみ。
人長:これで揉みます。
人長:これは何をしてるのかというと「エビを洗って」いるんです。汚れを落とし、臭みを消しているんです。片栗粉はクレンザーの役割ですね。
──片栗粉は研磨剤。
人長:お塩はエビの中に入っている水分を出すためです。味付けじゃないので、塩はひとつまみで十分です。片栗粉もひとつまみで十分です。
──塩がエビの水分を出して、片栗粉がエビの表面の汚れを水分と一緒に吸うと。
人長:そしたら水で流します。
──すすぎですね。
人長:水がちょっと濁っているでしょ。これがエビの汚れです。このひと手間だけでも、ぐっとおいしくなるんですよ。これ大事。
人長::何度か水を変えて流すと、エビが白くなるんですよ。
──うわ、きれいー。洗われたー。ということは、やはり殻の下に、こう……。
人長:エビの「生きてた証」があるんですねー。
──ウーム。水が濁らなくなったらオッケーですね。
人長:エビはキッチンペーパーで包んで水分を取ってください。
人長:このようにして水分を取ったら、次に「チャン」の工程です。中華料理の世界では、エビを縮ませないために「チャン」という下ごしらえがあるんですね。エビに下味をつけ、エビを縮ませないための大事な作業なんです。エビに味を入れていきます。お塩を3g。こしょう適量。いわゆる「テーブルコショー」で大丈夫です。
人長:ここに卵白。エビ200gに対して卵1/2個ぶんくらいかな。
人長:モミモミします。
──泡立てるというか空気を入れる感じですか。けっこうメレンゲ状になりますね。かなり激しくかき混ぜてるように見えます。
人長:と、思うじゃないですかー。手首です手首。スナップだけで大丈夫です。揉んでるんですけど、エビがちぎれないように優しく。こうしてエビにメレンゲの衣をつけてあげるんです。すると縮みにくいんで。
──そうか、どうして僕が料理すると、いつもエビがすごく縮んでしまうのかと思ってたら。
人長:火を通すと、どうしても身が縮んじゃうじゃないですか。縮まないようにするためにまわりに衣をつけてあげたりとか、下味をつけてあげたりとかするんです。
人長:チリソースの味だけだと、エビチリのエビはおいしくないんです。ちゃんと食材にも味を入れてあげる。これ大事です。
──ハッ! つまり「チャン」って、塩コショウで揉むと同時に卵白でコートするんですね。すげえ合理的。
人長:味が中に入って、卵白で衣もつけてる。でもこのままだと流れちゃいますよね。
人長:片栗粉小さじ1入れて、またかき混ぜて、この片栗粉で流れを止めてあげる。すると衣もちゃんとついてるので、これでオーケーです。
人長:片栗粉を入れすぎちゃうと、粉っぽくというかパサパサになっちゃうので気をつけてください。
エビを焼く
人長:フライパンでエビを焼いてから、それを取り出して同じフライパンでソースを作ってエビを入れます。なんでそうするかというと、エビとチリソースをぜんぶ一緒にやってしまうと時間がかかってエビがカチカチになってしまう。それを防いで、エビをプリッとした柔らかい状態で仕上げるためなんです。
人長:まず油を大さじ2。ちょっと多めです。油を入れてから火をつけます。まずは強火にしてください。
人長:本来は中華って「油通し」といって、ここで油を沸かしてエビにざーっと流すんですけど、家庭でそれはなかなかできないですよね。今日は焼いて取り出すということで、「油通し」の代わりとします。なので油もちょっと多めにしてます。油が沸いたら火を弱火にしてエビを並べていきます。
人長:一個一個、気持ちを込めて並べます。というか、ワチャーっと入れると卵白が一緒に流れて、エビ同士がくっついちゃうので、くっつかないように並べるんです。
人長:そしたら油をエビちゃん全体になじませてください。
──エビちゃん。
人長:エビが入ったら強火にして、裏面をカリッとさせます。これがだいたい1分。
──けっこうパチパチいいますね。これはひっくり返したくなっちゃいますね。
人長:そこはぐっとこらえてください。卵白が入るのでどうしても油が跳ねやすいですから、みなさん気をつけてください。1分経ったら火を弱火にして、ひっくり返します。
──いい「エビピンク」ですねー! そして思っていたよりカリカリ。
人長:ここから弱火で30秒。ここでのエビの火入れは5割くらいにしておきます。まだ中身は生でも大丈夫なんで。
──この段階では、表面がカリッとしていればいい。
人長:ここで火を止めます。両面をカリッとさせると中まで火が通りきってしまうので。完全に火が通る前に、お皿に移しておきます。
人長:そしてこの油、さっき大さじ2入れましたけど、エビに吸われて、いまちょうど大さじ1くらいになっていますんで(笑)。ちょうどいいので、油を追加しないでチリソース作りにいきたいと思います。
チリソースをつくる
人長:いま火は点いてないですね。エビを焼いた油もそのまま使います。
人長:ニンニク小さじ1。豆板醤を小さじ1。ショウガ小さじ3。入りました。ニンニクと豆板醤が1、ショウガが3。割合としては、1:1:3。この割合でやると、チリソースはうまくいきます。割合で考えると、いずれ目分量でもできるようになるんで、便利ですよね。で、辛いのが好きな方は豆板醤を増やせばいいし、苦手な方は半分以下にしてもいいですね。
人長:弱火で炒めます。ニンニクとショウガはちゃんと炒めてあげないと生臭いですよね。そして豆板醤ってしっかりと炒めることによって、辛味と赤い色がちゃんと出てくるので、必ずここで炒めてあげてください。
──そして焦げないように動かし続けると。
人長:調味料や薬味は、焦がしちゃうとその役目を果たさなくなるんで。
──うわっ、この香り、本格的な刺激。もう辛いっす。
人長:あの程度の豆板醤の量でもけっこう効きますよね。はい、いったん火を止めます。ここで甘酒を入れます。
──甘酒? あの、例の赤い缶の甘酒でも大丈夫?
人長:もちろんあれで大丈夫です。ちなみに、ウチのお店では酒醸(チューニャン)という調味料を使っています。これは麹ともち米とお酒を発酵させたものです。
人長:要は、これがすごく甘酒に似ているんです。味見してみます?
──チューニャンをぺろり。あ、甘酒じゃん。
人長:でしょ。酒醸(チューニャン)を日本で代用できるのが甘酒だなと思って。甘酒もないって場合は、みりんでも大丈夫です。中華では酒醸(チューニャン)をみりんみたいな感覚で使ってるんです。ウチのお店でもエビチリにはほぼ必須。マストで入れています。
──たとえば塩麹では代用できますか。
人長:えーとー。やったことないんで……。このレシピには塩を使うので、塩の量も加減し直さないといけないし……。
──めんどくさくなるだけですね、やめたほうがいいですね。
人長:ここにケチャップを大さじ2。これを入れたら火を点けて炒めます。ケチャップも豆板醤と一緒で、炒めることで無駄な酸味が飛んで、赤い色が出るんですよ。
──へぇー。ケチャップも豆板醤と同じように、炒めると仕上がりの発色がよくなるんすね。
人長:炒めないでこのまま入れちゃうと、ケチャップ臭さが出るんですよ。
──うへえ、ザ・ケチャップ味になっちゃう。
人長:炒めることによって、チリソースの味にちゃんとなるんです。酸味がふわっと上がってきますんで、ここに中華スープを入れます。
人長:100cc。今日は粉末の中華スープ小さじ1/2を、200ccの水に溶かしました。計りやすかったんで。200cc作って、そこから100ccだけ使うスタイルです。チリソースがしょっぱくなっちゃうから、薄めに作るんです。
人長:入ったら、火を全開にして沸かす。
──グツグツしてきた。
人長:ここに、お塩を小さじ1/4。お砂糖を大さじ1。
人長:一度火を止めて、味を見ます。
人長:………………。オッケーです。
──長いこと溜めたなあ(笑)。
人長:いえいえ、チリソースってすっごくバランスが難しくて。正直、豆板醤の種類によって砂糖と塩の量を変えないといけない場合があるんです。ここでしっかり味を見てほしい。
──つまり、味が決まるのはこの段階。
人長:はいそうです。ここで味を決めちゃいます。そしたらエビ投入。
人長:エビ汁もちゃんと入れてくださいね。
──エビ汁。
人長:これがうまいとこなんですよ。火を全開にして。
(じゅわじゅわーと音が鳴る)
人長:ネギも投入します。
──実際入れてみると、ネギ、けっこうたくさんありますね。
人長:これがないと、おいしくないんでっ! で、なじませて、ここで一回火を止めます。
人長:で、水溶き片栗粉。今日は片栗粉大さじ1に対して水が大さじ1。同量です。1:1。これは、いっぺんに入れないです。火を止めて。まずは半分くらい入れて、かき混ぜます。
人長:麻婆豆腐のときもやったんですけど、これが一番ダマになりにくい。ダマダマになっちゃうと、チリソースがエビにからまなくて、おいしくないんですよね。それは避けたいので、ちゃんと混ぜてから、火を点けます。
人長:ここでしっかりチリソースを焼くという作業に入ってくるので、最初にエビは五割程度しか火を通さないんですね。
──チリソースを焼く過程で、さらにエビに火を入れるんですね。
人長:そっすね。帳尻を合わせるんですね。ここでユルいと思ったら、火を止めて水溶き片栗粉を少し入れてあげる。ちなみに全部は入れてないです。
──大さじ1の片栗粉も、全部使う必要はない。
──なるほど。これ、はじめの段階でエビにしっかり火を入れてしまうと、この段階の加熱でエビがちっちゃくなったり、固くなったりしてしまうんですね。
人長:そうなんですよ! で、ここでみなさん「完成~」ってしてしまうんですけど、ここからキッチリ焼くことによってチリソースの香りが立ってくるんですよ。
人長:中国語でエビチリのことを乾燒蝦仁(ガンシャオシャーレン)っていうんですけど、ガンシャオって「乾く・焼く」って書くんですけど、それは調理法なんです。こうやって炒り焼きすることを「乾燒(ガンシャオ)」っていうんです。
──いまのこの工程が「乾燒(ガンシャオ)」。鍋際がフツフツしてますねー。
人長:ここに先ほどのエビ油を大さじ1。鍋肌にぐるーっと入れて、さらに焼いてあげる。材料にむきエビや冷凍のボイルエビを使ったためにエビ油を作ってない人は、もちろん無しでも大丈夫です。
人長:鍋のふちが焼けてきましたよね。わかります?
──もんじゃ焼きみたい。もんじゃ焼きみたいになるのが合図でいいんですね?
人長:……いや、もんじゃ焼きとは違うけども。
人長:ほらこれ、これすごく大事です。焼けた香りが上がってくるんですよ。常に混ぜてないと下が焦げてくるので注意ですよ。焼けて、香りが立ったら火を止める。ここにラー油。お好みで、入れる。
──わあああああ、そんなにたくさん入れちゃう。あ、辛いのが苦手な人はラー油なしでも大丈夫ですよね。
人長:もちろんです。そしてポイント。お酢を入れるんです。数滴でいいです、ホントに。いち、に、さん、し、ご。
──5滴!
人長:なんのためのお酢なのかというと、辛いチリソースをお酢でマイルドにしてあげる。尖った部分をお酢で中和することで、より料理がまとまる。そのためのお酢です。味をつけるためじゃないんです。
人長:これを器に盛って完成です。彩りにサニーレタスとかの緑の葉っぱを。赤と緑できれいでしょ。
──麻婆豆腐の仕上げの時に、鍋肌から油を入れて焼いたように、今回はエビ油とラー油を入れるのが仕上げなんですかね。あとお酢?
人長:エビ油は「香りをつける」、ラー油は「辛味を追加する」、お酢はその辛味をあえて「中和して味をまとめる」ためですね。
本日のまかない「玉子のチリソース炒め」
エビチリを作り始めたはいいけど、途中でエビがないことに気づくケースってわりとあるらしいですね。
そんなとき、片栗粉でエビの形を模したものを作ってなんとかするのも楽しいんですが、玉子を炒めてチリソースで食べるのもいいらしいです。
【材料】(2人分)
人長:玉子を割ります。2つ。
人長:普通に割りますよ、普通に、いつもどおりに。
──なぜか毎度毎度、派手なポーズを決めるようになってしまいましたね。
人長:かき混ぜます。
人長:フライパンに油を大さじ2。玉子と油の相性はすごくいいので、少し多めに入れてあげます。
人長:沸いたところに玉子を入れてあげます。
──けっこうな強火で。
人長:ええ、カセットコンロは火力が弱いので。これは具としての玉子なんですよね。スクランブルエッグにしちゃうと、玉子とチリソースがぜんぶ混ざっちゃうんですよ。なので、もうこれくらい。これくらいで大丈夫です。
──ちょっと麺片(メンピェン)みたいな感じなんですね。
人長:そうそう。これを器に一回移します。これがエビちゃんの代わりになります。
──エビちゃん。
人長:同じフライパンで、さっきのようにチリソースを作っていきましょう。
人長:一回火を止めて、玉子を入れます。ネギも入れます。水溶き片栗粉も入れます。これは玉子にかけてもしょうがないので、ソースのほうに入れて混ぜます。火は止めたままですね。
人長:混ぜたら火を全開にして、混ぜてトロみをつけるんですが、玉子に火が入りすぎるとおいしくなくなるので、これはあまり焼きません。
──さっきみたいに、おこげができるほど焼いちゃいけないんですね。
人長:これはちょっと別物なので。エビと玉子はちょっと扱いが違います。
人長:これくらいになったら、せっかくあるんでさっき作ったエビ油を入れてあげて、と。イケる人はラー油も。エビ油がなければないで、入れなくても大丈夫ですよ。
人長:そしてお酢を少々。そしたら火を止めて完成です。
──うわ、いい匂い。
人長:すぐできますよ。
食べましょう
人長:ね、エビが大きいままですよね。チリソースもしっかりからんで。うん! めっちゃうまいっす。しみるわー。ほとんどの中華料理の人、特に四川系の料理人は、他のお店に行ってまでエビチリを食べることはしないんです。だって、毎日のように作ってるし、わざわざ誰かのお店に行って食べようとは思わないんです。だけど、たまにね、自分で作ったり、どっかで食べたりするとね、「やっぱめっちゃうめえ!」って思うんですよ。
一同:わっはっはっは!
人長:なんていうんだろうな、エビチリって「エビチリの味」ですよね。たとえようがないですよね。甘くて、うまくて、辛くて……すべてが凝縮されてる。さらに今日はエビのオイルも作って、よりエビ感を出したので、とても……なんて言えばいいのかな……うまいんですよ。
──わははは! 語彙が消えてますよ!
人長:フライパンでけっこう焼いてるにもかかわらず、縮まずにプリッとしているのは、下ごしらえのチャンをしっかりやったからなんです。
──カリッとしたエビ表面にチリソースがまとわりつき、ぷりぷりのエビの身にも下味が効いてる。よくある「エビにチリソースを絡めたもの」みたいな乖離がなくて、一体感のある「エビチリ」として味わえる。すごくおいしいです。
人長:玉子ちゃんいきましょう。
人長:たまごチリソース。これはね、豪快に、いただきま~す。
人長:白ご飯に合うんですよ。かっこんでほしいです。白飯にこれをかけて、ズズズッといってほしいです。
──うわー、意外や意外、エビチリとはぜんぜん違う! 味が丸い。ご飯に合う。ご飯がつるつる飲める!
エビチリと陳建民の話
人長:そもそも、中国には料理として「エビのチリソース炒め」はありません。日本の四川料理の父、陳建民さんが考案されたお料理なんです。
人長:もともと向こうには「ガンシャオシャーレン」「ガンシャオミンシャー」というお料理があって。殻付きの有頭エビを使うんですよ。そのエビのミソがね、赤いんです。豆板醤とエビのミソの赤。僕も向こうで食べたことあるんですけど、そりゃまあ辛い料理です。
人長:豆板醤と醤油と砂糖とを入れたものを炒めて、そこにエビの頭を砕いたものを入れて、ってのがガンシャオシャーレン。それは、こういうエビチリの味付けではないんです。そもそもケチャップって、昔の中国にはないじゃないですか。いまのケチャップの原型はアメリカのものなので。ケチャップの発音は中国語が元らしいんですけど。
──NHKの『チコちゃんに叱られる!』でもやってましたね。
人長:やってましたか。陳建民さんって、回鍋肉とかもそうなんですけど、日本でどうしても手に入らない食材を使う料理を、どうやって日本の人に食べてもらうかって思いで作られていた方なので、エビチリもこういうものになったんだと思います。
人長:僕の師匠の師匠なんです。会ったことはないですけど。日本の四川料理人にとっては、神様みたいな存在ですよ。
人長さんの作るプロのエビチリが食べたくなったら
日本人の味覚に合うように作られたエビチリが、我々にとっておいしくないわけがありません。
そもそもこのチリソースが日本の食卓に向けたスタイルなわけですから、具材はエビに限った話ではなく、もうなんでもいけるお墨付き。
シーフードミックスや鶏肉に使うのはもちろん、この玉子のチリソースは白ご飯の飲み込みをアクセラレートする罪なヤツでした。
ぜひ皆さんにも作ってみてほしいです。
作るのはちょっとめんどくさい……という人は、日本橋にある人長さんのお店に行くといいですよ。あの陳健民の味を受け継いだ、プロの味を堪能できます。
撮影:平山訓生
お店情報
リバヨンアタック
住所:東京都中央区日本橋室町3-4-4 OVOL日本橋ビルB1F電話番号:03-3548-0840営業時間:ランチ/月曜日〜土曜日11:30~15:00(14:30 LO)、祝日11:30~14:30(14:00 LO)ディナー/平日17:30~翌0:30※金曜日のみ翌1:00まで(23:00 FLO/24:00 DLO)、土曜日17:30〜翌0:00(23:00 FLO/23:30 DLO)、祝日17:30〜22:00(21:00 FLO/21:30 DLO)定休日:日曜日(20名様以上のご予約の場合は、営業させて頂きます)
書いた人:鷲谷憲樹
フリー編集者。ライフハック系の書籍編集、専門学校講師、映像作品のレビュアー、社団法人系の広報誌デザイン、カードゲーム「中二病ポーカー」エバンジェリストなど落ち着かない経歴を持つ器用貧乏。
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