M.ナイト・シャマラン監督が明かす、オリジナル作品を撮り続ける理由「劇場での映画体験は、ほかの手段では再現できない」
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2コメント2件シャマラン監督が、コロナ禍での映画製作や、自身のキャリアについて5000字で語る
フランスのグラフィックノベルを翻案した、M.ナイト・シャマラン監督の最新作『オールド』(公開中)は、シャマランが得意とする、数奇な運命に巡り合った家族の物語だ。パンデミック以降では最初に撮影されたハリウッドの大作映画であり、多様性のあるキャスティングも見どころの一つとなっている。スリラー映画の大家であり、世界中のファンがその動向に注目するシャマラン監督に、独占ロングインタビューを行なった。【写真を見る】恐怖と感動が押し寄せる!シャマラン節全開の『オールド』『オールド』では、急速で時間が過ぎていく美しいビーチに幽閉された人々が“老い”の恐怖に苛まれる。ビーチ・リゾートを訪れたガイ(ガエル・ガルシア・ベルナル)とプリスカ(ヴィッキー・クリーブス)ら一家は、ビーチでさまざまな怪奇現象に見舞われる。急速に成長する子どもたち、マドックス(トーマシン・マッケンジー)とトレント(アレックス・ウルフ)。海岸に打ち上げられた死体とパニックに陥る人々。彼らはこのビーチから抜けだすことができるのだろうか。■「リモートでのオーディションには、1000人以上が集まってくれたんです」――今作のキャスティング作業はすべてオンラインだったため、これまでにない経験だったと聞いています。どのように行われたのでしょうか?「ハリウッドで映画製作を再開したのは私たちが初めてでしたし、ヴァーチャルでのキャスティングも初の試みだったので、本当に奇妙な感じでした。いまとなっては当たり前のことですが、ベッドルームやキッチンにいる人々の姿を見るのも、自分のそんな姿を見せるのも異様な感じがしたし、俳優たちがリビングルームで演技をしているのを見るのも初めてのことでした。通常はキャスティング・ディレクター宛てに映像が送られ、それを元にキャスティングを開始するからです。しかし、良いこともありました。場所を問わずに選考ができるので、世界中から本当にたくさんの俳優がオーディションに集まってきたんです。『どうせ家に籠もっているし、シャマランが新しい映画のキャストを募集しているならやってみるか』という人が1000人以上も集まったんです。おかげで多様性に富んだキャストが揃ったので、本当に時間をかけて適切な組み合わせを考えることができました」――この映画のなかで多様性のある家族やグループを描くことには、どのような挑戦がありましたか?「物語の舞台がリゾート地であることから、同じ国や地域の出身に限らずに出演者を集めることができる珍しい機会でした。世界と私たちは、自分とは少し異なる人々や、自分とは異なる響きを持つ言葉を話す人々を見ることに、いままでよりも少しだけ寛容になっていると感じています。メキシコ人俳優を主役にした映画のなかで最大規模の作品がなにかはわかりませんが、『オールド』はその上位に位置するはずです。例えば、プリスカを演じたヴィッキーは、ドイツ語訛りの英語を話しています。このような要素はスタジオの要望で仕方なくやったわけではなく、物語や設定に沿ったものだったので本当に楽しむことができました」――あなたが映画を作り始めた頃と比べると、いまのハリウッドは変化の途中にあると思います。その変化をどう捉えていますか?「映画作りとはなにかと考えると、登場人物に共感してもらうことなのではないかと思います。25年前には、例えば黒人のキャラクターをライバルとして描いたり、主人公を楽しませる相棒として描くことはできても、観客自身を投影し、夫として、父親として共感してもらうのはとても難しいことで、長い間デンゼル・ワシントンだけがこの例外でした。それがいまでは、まだ完全ではないものの、どんどん変化が進んできています。女性の描かれ方に関しても、女性主人公の葛藤や強さを、当たり前に受け入れてもらえるようになってきたと思います。だから、これまでよりも自由なキャスティングをできるようになったと感じています」■「長年、人間ドラマとジャンル映画の融合を目指してきました」――シャマラン作品に対する観客の期待は常に高いところにありますね。その期待を裏切らないようにする方法は?「観客との間には非常に強い関係が結べていると感じています。作家と観客が強い関係を築く時はいつもそうですが、観客は期待して待ってくれています。例えば私がアガサ・クリスティの小説を手に取るときもそうです。小説の内容に期待し、キャラクターにも、ミステリーにも、すべてに期待値を上げています。だからこそ、私は観客が望むものを理解しようとしているつもりですし、彼らを満足させつつ、作家として成長するために様々なことに挑戦しているのです」――世界には、実に多くのタイプのスリラー映画があります。あなたの映画の特徴や、あなた自身の得意分野はなんだと思いますか?「私は、人間ドラマとジャンル映画の融合を目指してきましたが、それはとても難しいことでした。なぜなら、自分の家庭環境や家族と共通点があると思わせたうえで、超自然的な要素を混在させないといけないからです。なので、物語のジャンルを変化させる際は慎重になるようにしています。物語が進んでいくなかで、より怖い方向へと進んでいくことはできますが、逆戻りすることはできません。人間ドラマから、ミステリー、スリラー、超常現象スリラーのように、段階を踏んでジャンルを変化させていく必要があるのです。私は映画を作りながら、これらのルールがなんであるかを学んできました。また、宗教について直接言及することはなくとも、スピリチュアルな要素も少しずつ入れてきたつもりです」――『オールド』の物語における、ジャンルの変化について教えていだけますか?「本作では人間ドラマからSF、そのほかのジャンルへと変わっていくなかにロマンスの要素を並置すると、どう相互作用するのかに興味がありました。私は学校などで映画の構造について勉強したわけではありませんので、これは直感的に挑戦したいものであって、フリージャズを演奏するような感じなんだろうと思います。自分の耳に心地よいと感じる様々な形式や動きを試してみるようなものですね」――監督自身がカメオで演じられる役は、脚本を書いている段階で決めているのですか?「選ぶのは後からです。脚本を書いている時には、今回は入るところがないなと思っていても、何度か改稿を重ねるうちに、『ああ、この役を演じることができるかもしれない』と思うことがあります。こういう遊びは楽しいですが、私が出演する代わりに誰かを降板させているわけではないですよ(笑)。だいたいは映画の序盤で登場するようにしていて、観客の邪魔にならないようにしています。今回の『オールド』での役はとても楽しかったです。南の島が舞台なので、私のような外見でも普通にいそうな人に見えますしね」■「劇場での映画体験は、ほかの手段では決して再現できないもの」――映画やドラマはもちろん、アニメーションまであなたの活動は多岐にわたっていますね。ハリウッドにご自身の立ち位置についてはどう考えられていますか?「私自身、模索しているところです。私に課せられた仕事の一つは、新しい映画の作り方や表現に挑むことだと思っています。しかしだからといって、古いやり方が無効だというわけではありません。つまり、オリジナリティある物語を映画館で上映すればいいのです。そうすれば、劇場での映画体験は物語と非常に強い関係を築くことができ、それはほかの手段では決して再現できないものになるはずです。そのようなオリジナリティある作品を映画館で上映できるように戦うことが、いまの私の仕事だと思っています。そして、映画館向けに作られた作品では、さらに高い品質のものを提供しようとしています。もう一度、『オールド』を注意深く観ていただければ、特定のシーンに音楽がついていないのには理由があり、効果音や音響も慎重に吟味されていることに気づくでしょう。Apple TV+には、サービスの特徴を活かして(『サーヴァント ターナー家の子守』を)40話構成にしたいと伝えています。このようなサービスにおいては、映画を作る時と同じ価値観を保ちながらも、物語を伝えるための多様な方法を学ぼうとしています」――観客を飽きさせない秘訣はなんだと考えますか?「秘訣というほどのものではありませんが、すべての演出に関して、“規律を守る”ということは常に意識しています。私がこれを徹底すれば、観客は上映が始まってすぐに、“映画の言語”をマスターすることができます。つまり、これは誰のシーンで、なぜこのような照明が使われ、なぜこのような時にだけカメラが動き、音楽が流れるのかということが“映画の言語”です。例えば、ホラー映画のなかで殺人鬼が逃亡中で、真夜中にサンドイッチを作ろうとしている女の子がいるとしましょう。彼女がお腹を空かせ、歩いているときに怖い音楽が流れ始めたら、あなたはその時全知全能の視点を持っています。観客の視点は彼女の行動よりも先行しており、彼女は死ぬのだろうかと考え始めます。もしも彼女がサンドイッチを食べることを恐れたり、近づいてくる音を察知したとしたら、観客の視点も変わります。このように、観客がなにを、なぜ見るのかを把握し、判断を怠らないようにするだけでも、ストーリーテリングに流暢さが生まれるものです」■「『オールド』は、『藪の中の黒猫』と『羅生門』を参考にしています」――とても興味深いです。日本にはJホラーというジャンルがありますが、日本の映画で好きな作品、参考にした作品はありますか?「実は、本作に影響を与えた日本映画が2本あります。1本は新藤兼人監督の『藪の中の黒猫』です。兵士に殺された2人の女性が幽霊となって戻り、布をかぶって森のなかを歩いていく物語でしたが、クリスタルがビーチを移動するシーンでも布をかぶって移動しています。これは『藪の中の黒猫』の、かつて美しかった人が自分の姿を隠しているというアイデアにとても感動したからです。また、この映画のサウンドトラックの民族楽器のようなドラムがとても気に入っていて、『オールド』でも使用しました。もう1本は、黒澤明監督の『羅生門』です。この作品で黒澤監督は、森のなかで高速のカメラワークを多用し、まとまりのない空間を映したり幾何学模様の物質を映り込ませたりして視差効果を与えていましたね。森や海で撮影する場合はこのような方法を取らないと、なにを撮影しても同じように見えてしまい、差異が現れにくいのです。これは『オールド』にとっても非常に有益な技術でしたので、大いに参考にしています」――パンデミックが始まった時、とてもシュールなことが私たちの生活に突如起きて、どこかあなたの映画のなかの世界のように感じられました。もしもあなたがこのパンデミックのストーリーを書いていたとしたら、どんなひねりを加え、どのような結論にしますか?「ちょっと考えさせてください。ええと、つまり、すでにとても深刻な状況ですよね。いま我々は第二幕にいると思います。第二幕は、アメリカにおいてワクチンが行き渡り収束するかのように思えた。だが、『俺たちは大丈夫だ』とパンデミックやワクチンを信じないグループが出てきて、さらにたくさんの変異株ウイルスが登場する…。いや、これは完璧な第二幕ですね。解決できそうなハードルだったのに、それが解決されずに問題が増えているような…。この話をしていたら混乱してきました。この第二幕のなかにいる、現在の私たちの受け止め方は穏やかすぎませんか?もし、もっと問題を深刻に捉えていたら、みんながワクチンを打っていたはずですよね。私なら、第三幕はオープンエンディングにしますね」取材・文/平井 伊都子
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