メシ通 Produced by RECRUIT カレーを趣味で自作、間借りを経て店を持った店長の「ナッツ入りキーマカレー」の作り方を教わってきた
神戸って、カレーの街だったの?
2020年、東京から神戸に引っ越してきた。
これだけの長距離移住になると、もう飯を食う時にどこで何を食べていいかもわからない。
特にカレー。
自分は外食でカレーを食べるのが特に好きなのだけど、どこが美味しくてどこにお店があるのか、さっぱりわからないのである。
そんな時にネットで発見したのが、「#神戸をカレーの街に」というハッシュタグ。神戸、カレーの街だったの……?
しかしこのタグを掘れば、全然わからなかった神戸のカレー屋さんがガンガン開拓できる。これはありがたい……!
▲このビルの3階がラージクマール。脇の階段を上ると入れる
そのハッシュタグを積極的に使って情報発信しているお店が、神戸の市街地の中心である三宮にほど近い、長狭通りで営業している「神戸カレー食堂 ラージクマール」。
初めて訪れた時はコロナ禍で大変な状況ではあったけど、感染症対策を取りつつランチは営業しているという。
事前情報はあまりなかったものの、用事で出かけた折に寄ってみると、これが美味い。
辛くないのに味に奥行きがあり、スパイスの味も野菜や肉の歯ごたえもはっきり感じられる。
昨今のスパイスカレーのような尖った味でもなく、かといって「お母さんが作ったカレー」みたいなテイストでもない。
ちょっと変則的な食材の取り合わせながら、優しく食べやすい安心感のあるカレーだ。
近所にあったら週イチで通ってしまいそうな味である。
このラージクマールを経営しているのが、店主の片山絢一さん。
前述の「#神戸をカレーの街に」というハッシュタグの発起人であり、お店を運営する他にもレトルトカレーを作ったりレシピをネットで公開したりと、なにやら面白そうなことをいろいろやっているらしい。
しかしそもそも、神戸ってカレーの街なのだろうか……。
どうしても話を聞いてみたくなり、緊急事態宣言が解除されたタイミングで取材をお願いしたところ、快諾していただけた。
そこで聞けた話というのが、片山さんの予想以上の行動力とカレー愛、そして神戸という街への思い入れに満ちたものだったのである。
営業職の会社員から、カレー屋さんになることを決断
▲店内はこんな感じ。広いです
──まず、お店を開店するまでの経緯を聞かせていただいてもいいですか?
片山:もともと生まれが群馬で、2008年に就職したのが東京に本社のある化学メーカーだったんです。で、そのメーカーの営業をやっていたんですけど、2011年に大阪に転勤になったんですよ。群馬って周囲に海がなくて、ずっと港町に憧れがあって、大阪転勤の機会に神戸に移住しました。
──最初はカレー屋さんとは全然関係ないお仕事だったんですね。
片山:そうです。で、当時自分は空手をやってたんですけど、ちょっと怪我をしちゃって。以前ほどハードな練習ができないから時間ができて、「なんか料理でもできるとモテるかな……」と思い、そこから料理を始めたんです。パスタとかも作ってみたんですけど、そこで初めて赤缶と呼ばれるある有名メーカーのスパイスを使ってカレーを作りました。2014年くらいの話ですね。
──おお、そこでカレーに。
片山:そのカレーを作った時に「これだってスパイスを混ぜたものなんだから、この缶の裏に書いてあるスパイスを買ってきたら同じものができるのかな」と思ってやってみたんです。そこから一気にカレーとスパイスにハマりまして、独学で作り始めたんですよ。作っていたら人に食べさせたくなったんで、家に友達を呼んでカレー会みたいなのをやって。この頃は完全に趣味です。
──そこからお店を作るまでって何かきっかけがあったんですか。
片山:2017年の1月に、大阪でやっているカレーのイベントに出たんです。お店を持ってない人でも出られるっていうもので、そこに今もお店で出しているナッツ入りキーマを持っていったんですよ。最初は不特定多数の人に自分のカレーを食べてもらったらどうなるんだろうと思って参加したんですが、ここで感動しちゃいまして。
──感動ですか。
片山:今でも覚えてるんですけど、「お店どこなの?」って聞いてもらえたんですよ。これが嬉しくて……。当時は会社員だったんで毎月25日には必ず給料が入ってきていたんですけど、カレー屋さんだったら自分が研究したものをお客さんに食べてもらえる。それで喜んでもらって、その対価をもらうことを生業にする……働くというのはこういうことかと、その時はっきり感じたんですね。カレーを作るのも食べるのも好きなんですけど、人に食べてもらうのが一番好きなんだということがわかって。その後、同じ年の5月にもう1回そのイベントに出たときに、「カレー屋さんをやりたい」という気持ちを再確認しました。
──う~ん、いい話ですね……!
独学でカレー作りを学び、「間借りカレー」へステップアップ
▲お店に入るとまずはハンドクラフトや他のカレー屋さんのネームカードなどが置かれているスペースが
──しかし、カレー作りってまったくの独学だけでお店を開くレベルまでいけるものなんですか。
片山:イタリアンとかフレンチとか、あとお寿司とか、そういう料理よりは独学でいけるジャンルじゃないかと思います。自分も、基本的にはスパイス料理研究家の方のブログとかネットで情報を得つつ、試作を重ねてきました。あと参考にしたのは著名なカレー研究家が書いたレシピ記事とかですね。
──なるほど。専門店で何年も修行してから開業する以外のルートが、カレーだとけっこうあるということですね。で、イベントに出て以降は……?
片山:当時の勤め先は大阪だったんですが、大阪には「間借りカレー」という文化があって、会社の近所でもけっこうやってたんですよ。間借りカレーというのは、バーの昼間の時間帯やシェアキッチンなど、日時限定で店舗やキッチンを使わせてもらい営業するタイプのカレー屋さんなんですけど、そのうちの1軒の人と仲良くなって「やってみたら?」って言われて、じゃあやってみようと。
──話が早いですね。
片山:でも、当時の神戸ではあまりやっている人がいなくて、場所を貸してくれる人も、間借りカレーがなんなのかを知らない人も多かったんです。だから営業やってた時の感じで「間借りカレーとは」っていう資料を作って、場所を貸してくれそうな人のところにプレゼンに行きました。「こういう形態のカレー屋さんで、自分に場所を貸してくれるとこういうメリットとデメリットがあって、こういう設備は借りたいけどこれとこれは自前で用意できます」みたいな資料を作りましたね。
──さすが、元営業職!
片山:間借りカレーは2017年の8月くらいから始めて、最初に借りたのはカフェバーだったんですけど、そのあとはあちこち転々としました。で、2019年の1月から「店舗の一角にラーメン屋さんが抜けた後の設備があるライブハウス」という物件で間借りができたんです。ここの店長さんが「ライブハウスはいろんなミュージシャンを応援する場。それで言えば間借りカレーもミュージシャンがストリートからメジャーを目指すようなもんですよね。応援します!」って言ってくださって、ものすごく親身になっていただいたんですよ。
──いい話だ……。しかし、当時まだ片山さんって、会社員ですよね。
片山:そうなんですよ。間借りカレーは週末だけやってたんですけど、会社勤めのほうもそれなりに忙しい仕事だったから、金曜の帰りが夜の11時とかで。そこから仕込みをして2時間くらい寝て、そのままお店に行ってました。玉ねぎやら米やら肉やらも自分で運ばなきゃいけないから、午前中の早い時間にレンタカーを借りて業務用スーパーに行って、食材を買ったら店まで荷物を運んで、さらにレンタカーを返してから、今度は電車で店まで移動して……みたいな。
──大変すぎる……。
片山:でも楽しかったんですよ! 僕が恵まれていたのは、当時から手伝ってくれる知人が8人ほどいてくれて、それでなんとかなってました。あと自分で言うのもアレなんですが、月に2~3回しか開店しないっていうのもあって、それなりに話題性はあったんですよ。最終的には1時間待ちくらいの行列ができるようになって、あれはありがたかったです。
──間借りでそれはすごいな~!
そしていよいよ開店。しかしコロナ渦が直撃……!
──そこからいよいよお店を開いたわけですか。
片山:間借り営業のラストが2019年の10月だったんですけど、この年の9月にライブハウスを借り切って「神戸カレーポート」というカレーフェスをやったんです。有志と一緒に計画して会場費を集めて、350人くらいお客さんも来てくれて。11月にラージクマールをオープンしました。さらにそのちょっと前の8月に会社を退職してまして、この時は「退職の手続きをしながらイベントの準備をしつつ、お店を開店する準備もする」という状態で、死ぬかと思いました。
──よく生き延びましたね……。しかし、お店を開いてよかったことってありますか?
片山:最初にイベントに出た時から「いつかお店をやろう」とは思ってたんです。思ったより早く実現しましたけど。最初にお客さんに自分のカレーを食べてもらった時の感動を毎日味わってるんで、そこはもうお店を開いて本当によかったと思っています。スタッフにいい子がたくさん集まってくれて、それもよかったと思いますね。
──そういえば、通常のスタッフとは別にラージクマールさんは学生のインターンも受け付けてるんですよね。
片山:アルバイトとは別です。神戸のあるNPO法人が、学生が集まって活動するための施設を運営していたんですけど、そこが再開発で取り壊されちゃって。そういう事業ができて、学生の背中を押してくれる人を探してますという話をいただいていたんで、じゃあうちのお店でインターンをやるのはどうですかと提案しました。
──いわゆるアルバイトとは違うんですよね。
片山:そうですね。今の売り上げはこのくらいで、本当はこのくらいの数字がないとお店が潰れちゃうんだけど今はコロナ渦でこうなってて、じゃあどうやったら売り上げがあがると思いますか、というのを考えてもらってます。
──そういう数字も全部オープンにしちゃうわけですね。
▲これがお店の一角にある、学生さん考案の貸切スペース
片山:それで例えば、お店の一角が遊んでたんで、そこをドライフラワーで飾り付けて貸切スペースにするのはどうでしょうと提案してもらいました。で、ドライフラワーの先生と打ち合わせをして、配置と吊るし方を考えてネットで宣伝して……っていう一連のプロジェクトを立ち上げて学んでもらおうと。就活の面接でも「実際に個人事業に関わってプロジェクトを立ち上げて、これだけ収益を上げました」って言えたら強いんじゃないかと思って。
──は~~、そりゃたしかに面接対策としては強いですね! あと、ラージクマールさんってレトルトカレーも売ってましたよね。
▲こちらがオリジナルレトルトカレーのギフトセット
片山:やってます! 今度リニューアルしますけど、あれもコロナ渦があったから始めたことなんですよ。2020年の4~5月に街から人が消えちゃって、カレーを食べてほしくてカレー屋さんになったのに、誰にもカレーを食べてもらえないし、お店に来てくれとも言えない状態になっちゃって。そこで、まずやったのがレシピをネットで公開することだったんです。とりあえず、ひとまず家で自分で作って食べてほしいという。お金にはならないんですけど。
──切実ですね。
片山:これがすごくいろんな人に喜んでもらえたんで、カレーを届けるって、お店に来てもらうだけじゃないんだなと思ったんです。それで近くの他の飲食店の方と共同で「神戸デリバリーマルシェ」っていう取り組みもやりました。当時、飲食の宅配サービスって飲食店からの新規申し込みが殺到してて、新しくデリバリーを頼めない状態だったんですよ。じゃあもう自分たちでデリバリーをやろうと、近くに知り合いのお店の方がアイデアをくださって。自分たちのインスタのアカウントのDMで注文を受けて、それをお店同士で共有して車を出していただいたりドライバーを雇ったりして、お客さんに届けました。ただ、これだとやっぱりお届けできる範囲が狭い。
──う~ん、そうなりますよね。
片山:もっと広くやろうと思うと、やはりレトルトだなと。そこでまず百貨店とかコンビニとかで売ってるレトルトカレーをひとしきり買いあさって、全部食べました。
──全部!
片山:それで美味しかった会社に「神戸のカレー屋さんなんですが……」と直接電話して、そのうち一社がたまたま話を聞いてくれて。レシピをお送りして現物も冷凍して送って、うちのカレーを再現してもらいました。そこで売るかとなったんですが、レトルトカレーを売る方法が全然わからない。「どうやったらデパートに並ぶんだろう……」みたいな。
──わかんないですね、確かに。
片山:そもそも、レトルトカレーで大手食品メーカーさんに勝てるわけがないんですよね。だったら別の土俵で戦おうと。今コロナ渦で行き来できないから、ギフトとして「会えないけどあなたのことが大切ですよ」と伝わるものにしたい。ということで、ギフトセットの形をとることにしたんです。今度リニューアルする予定なんですが、こちらはもっと手紙っぽいデザインというか、封筒みたいな形にして手紙も入れられるようにしたいです。ECサイトもあるので、注文していただければ全国に発送しますよ!
──それを使えば、全国どこでもここのカレーが食べられるわけですね。
「#神戸をカレーの街に」に込めた思いとは
▲店内には「#神戸をカレーの街に」のイラストボードもある
──あと、「#神戸をカレーの街に」というハッシュタグを作ったのが片山さんだという話なんですが。
片山:もともと間借り時代から「神戸をカレーの街にしたい」って言ってたんですよ。いろんな飲食店の方から「神戸でカレー1本でやっていくのは難しいよ」って言われていて。というのも、神戸ではカレーって低単価なものというイメージがあると。夜にお酒を出して稼ぐのが小規模な飲食店のビジネスモデルだから、昼をメインに低単価なものを売るカレー屋さんって、完全にその逆なんですよね。神戸ってマーケットも小さいし。
──理屈ではそうなりますよね。
片山:でも、神戸のカレーが名物になってマーケット自体を作ることができれば、神戸のカレー屋さんは全員生き残れるじゃないかと思うんです。あともうひとつ、神戸の人口って今どんどん減っていて、福岡とか川崎より少ないんです。そこで名物が増えて「カレーを目当てに神戸に来る」というお客さんが増えれば、自分の好きなカレーが街に貢献できるんじゃないかと思っています。
▲神戸のカレー屋さんのマップも貼られているのだ
──たしかに、神戸の人口減のスピードはすごいらしいですね……。
片山:それでも、例えば「香川にうどんを食べに行く」くらいの感じで神戸にカレーを食べに来てくれる人が増えれば、いろんなところにお金を落としてくれるんじゃないかと思うんです。人口が減っている都市の中でお金を回すんじゃなくて、外からお金をいかに引っ張ってくるかを考えたい。そしてそこに自分の好きなものがかかわれたら、こんなに嬉しいことはないなと。だから「#神戸をカレーの街に」というハッシュタグは、自分を含めた神戸のカレー屋さんがより発展することと、そして神戸という街のためになにかできないかという狙いがあるんです。
──なるほど。神戸っていろいろな名物がありますけど、そこにもうひとつカレーが加わっても、誰も損しないですもんね! この取り組みに関して、何か手応えは感じていますか?
片山:インスタだけですが、2021年10月の段階で合計1.5万件くらい投稿されていますね。このタグをきっかけにカレー屋さん巡りを始めたという人もいます。あと、カレー屋さん以外の業種の方に「カレーの街なんかにさせないぞ!」ってたまに言われるようになって。神戸には洋食もケーキも中華もあるし、何を勝手なことを言っとるんじゃっていう反応がたまに来るようになりました。ということは結構目立ってきてる、出る杭にはなれているのかな……と思ってます。ただ、別に僕が目立ちたいわけじゃなくて、本当の目的はさっきお話ししたところにあるんですけどね。
──自分も神戸移住してお店が全然わからないんで、このタグには助けられてます。ほんと、カレーが新たな神戸の名物になるといいですよね……!
片山さんが最初に売ったナッツ入りキーマカレー「3種ナッツの香ばし鶏キーマ」を作ってみよう
▲普通にお店で出しているカレーです!
──で、ここからは片山さんが初めてイベントで出したカレーの、「3種ナッツの香ばし鶏キーマ」の作り方を知りたいんですが、これって今でもお店のレギュラーメニューですよね。
片山:そうですね。最近のスパイスカレーの主流ってシャバシャバしたものなんですが、僕は肉肉しいごろっとしたキーマカレーが好きなんです。そこでシャバシャバしたカレーにはないキーマなりの良さってなんだろうと考えた結果、食感で差をつけられることじゃないかと思いまして。あと、トッピングが比較的やりやすいというのもあります。
──そこを活かしたカレーであるということですね。
片山:そうなんですよ。硬いもの、ナッツや歯ごたえのある野菜が入っているといいのかなと思って、今まで作っていたキーマのレシピにナッツを組み合わせたものになります。最初のレシピは2016年くらいにできたんですが、いまだにマイナーチェンジを重ねてます。
──なるほど……。で、こちらが材料ですね。
▲ニンニクと生姜は業務用のボトルが巨大すぎて収まらず、写真に写っておりません。ごめんなさい!
【材料】(4人分)
片山:これでだいたい大人4人分の量です。
片山:まず火をつけずにフライパンに油、マスタードシードの順で入れます。で、超弱火で温めます。マスタードシードは辛みのためというより、入れると全体の香りが香ばしくなるんですよ。
▲火は超弱火
──ここはもう、超弱火でいいんですね。
片山:ゆっくり加熱している間に、玉ねぎをさいの目切りにします。切り方はかなり粗めです。
▲けっこう切り方が粗いけど、これでいいんです
──およそ1㎝角くらいありますね、これ。
片山:諸説あるんですが、僕はなるべく玉ねぎの組織を壊さずに切った方が美味しいと思うんですよ。多少切り方が大きくても、ひき肉を入れるとあんまり気にならないですし。で、玉ねぎを切りつつマスタードシードがパチパチとはぜてくるのを待ちます。
──調理するうえで気をつけた方がいいことってありますか?
片山:油と塩の量はしっかり量ったほうがいいです。スパイスって粉末ですけど、あれが油に溶けて初めて香りが出るんです。だから、最初にフライパンに入れる油の量がきっちり決まっていないと味がぶれやすい。今日もきっちり大さじ3で量ってます。……あ、マスタードシードがはぜてきたんで、玉ねぎを入れます。
▲おたまで押し付けるようにして玉ねぎを敷き詰める
▲ここからはずっと強火!
──お、フライパン全体に玉ねぎを敷き詰めている。
片山:これは某有名カレー研究家のレシピの真似なんですが、玉ねぎを炒める時はフライパンに敷き詰めて、強火で揚げ焼きみたいにしています。放っておくと焦げるので、ときどき玉ねぎが半分くらい浸る程度に差し水(分量外)をします。
▲差し水は焦げそうになったら入れる。けっこうドバッといっていいです
▲3〜4分揚げ焼き、からの軽く混ぜて差し水。これを3回くらい繰り返すとこうなる
──飴色になるまで炒めて……みたいなことはしないんですね。
片山:長時間炒めないといけないと思うと、挫折しちゃいますよね。差し水をすると、フライパンについた焦げが溶けて全体に回って、放っておいても茶色く色づいてきます。これを2~3回繰り返すと、速攻で飴色になりますよ。あと、差し水の量は躊躇しなくていいです。入れすぎたなと思っても、水分はすぐ飛ぶので。というわけで、玉ねぎを揚げ焼きにしている間に、人参とトマトを切ります。
▲人参も粗めのさいの目切りに
▲トマトは「切れていればいい」くらいの感じ
──人参もけっこう切り方が大きいですね。これも1辺1㎝弱くらいの大きさ。
片山:このくらいの大きさの方が、歯ごたえがあって美味しいですよ。トマトは最終的に潰すので、なんとなく切れているという程度で十分です。で、玉ねぎが茶色くなってきたのでここでニンニクと生姜を入れて混ぜます。
▲生姜を大さじ1
▲そしてニンニクも大さじ1投入
──ニンニクと生姜はけっこうがっつり入れるんですね。
片山:このカレーはしっかり出汁を取らない作り方なので、ニンニクと生姜が出汁の代わりなんですよ。これがないとパンチがなくなるし、食べてみてコクがないと感じる時はだいたいニンニク不足です。混ざったらトマトも入れちゃいましょう。
▲トマトも入れちゃう
──これ、生のトマトじゃないとダメですか。
片山:缶のほうがもちろん楽です! 生トマトの場合は適宜水を足して、トマトの汁気が全体に回るようにしなくちゃいけないですが、缶ならそのままで大丈夫。で、ここからが大事なんですが、トマトはフライパンの中で潰しつつ、家庭用コンロなら最強の強火くらいの高温でしっかり水分を飛ばして加熱してください。
▲適宜水を足しながらトマトを潰す。トマトの汁気が全体に回ったら、強火でガンガン炒めて水気を飛ばす
▲ゆるいペースト状になってきた
──それは何か理由があるんですか?
片山:トマトにはクエン酸が多く含まれているんで、このクエン酸を高温で飛ばしておかないとカレーが酸っぱくなって味がブレちゃうんです。トマト缶の場合も同じように、汁気が飛ぶまでしっかり炒めましょう。このトマトの酸味が残ってしまうと、後からリカバリーできないんですよ。玉ねぎを炒める時は副菜作ったり他のことをやりますけど、この工程だけはつきっきりです。逆に酸味を活かしてトマトカレーにしたい場合は、火を弱めて水分を残しつつ、ゆっくり煮るという作り方になります。
──はは~、トマトの風味やコクだけが必要な時と、酸味も活かす場合とで加熱の仕方が違うんですね。あ、もう汁気が飛びましたね。業務用コンロだと早いな。
▲初の鎮火
▲スパイスと塩が入ります
片山:トマトが炒まったら、ここで初めて火を止めます。で、スパイス全部と塩を入れてよく混ぜます。スパイスもきっちり量った方がいいです。市販のスパイスって瓶を振ってば~っとふりかける形になってますけど、あれはやめた方がいい。逆に、ここだけきっちり量っておけば味がブレないです。
▲ぐるぐる混ぜたらカレーになってる!
──あ、スパイスが混ざったら一気にカレーになりましたね。めちゃくちゃいい匂いがする……。
片山:混ざったら人参、カシューナッツとピーナッツを入れて、中火で炒めます。ナッツ類は普通に市販されている、無塩のやつならなんでも大丈夫です。軽く炒まったら火を弱めずに煮込み用の水と鶏ひき肉を入れます。
▲肉がラストなんですよ、このカレー
──肉は最後なんですね。
片山:そうですね。ひき肉はほぐしながら、火が通るまでしっかり炒め煮にします。火が通り始めてバラけてきたら弱火にして、数分煮込みます。実際、もうこのくらいでカレーとしては成立してるんですよね。
▲軽く水気が残るくらいまで炒め煮にする
──もう美味そうですもんね。
片山:で、これがちょっと僕以外にやってる人をあんまり見たことがない工程なんですが、ココナッツミルクパウダー(ココナッツミルクでも代用可)を粉のままでまぶすように全体に混ぜ合わせます。ココナッツミルクを使う場合は、中火で炒めながら少し水分を飛ばしてあげてください。
▲ココナッツミルクパウダーを粉のままいく
──これって、普通は水とかに溶くものですよね。
片山:そうなんですよ。本当はお湯とかで溶かないとムラになっちゃうんで。ただ、粉のままで入れるとカレーの水分量をコントロールできるんです。このカレーはシャバシャバしたものじゃなくてごろっとした肉っぽい感じにしたかったので、ここではあえて粉のままいきます。あと、ココナッツミルクって長時間火を通すとえぐみが出るので、この方法が一番風味を残しつつ水分量を調整できると思うんですよね。
──理屈がちゃんとあるんだなあ……。
▲ざっと混ぜたらできあがり!!
片山:これで一応カレー自体は完成です。あとはさらに盛りつけて、砕いたアーモンドをのせればできあがりなんですが、一応今日はお店と同じ感じで盛りつけてみます。
▲お店と同じように盛りつけてもらいました。文句なく美味そう
──めちゃくちゃ美味そう!
片山:よかったら召し上がってみてください。
▲うめ〜〜〜
──いただきます! うへ~~~、ナッツのザクザク食感がうまい!! スパイスの香りも効いていて、クセになりそうな味。作る工程を見てから食べると、余計納得感がありますね!
片山:いやあ、ありがとうございます。
片山さんとラージクマールの次なる目標とは
──今後片山さんがやりたいことはなんですか。
片山:もしご時世的にやれるようになったら、もう一回カレーフェスはやりたいんですよ。あと、以前「浜松の餃子はどうやって有名になったのか」と勉強したことがあったんですが、あれってプロレス的な対決で知名度を上げていったらしいんです。
──対決ですか。
片山:もちろん本気の喧嘩じゃなくて、宇都宮とか他の餃子の名所に「どっちがうまいか決めようぜ」って乗り込んでいって、それで対外的な知名度を上げたと。だから神戸のカレーも、例えば神田とか横須賀とかそういうカレーで有名なところと手を組んで、一緒に盛り上げつつ対決みたいなことができたら面白いだろうなと思うんです。
──それは盛り上がりそう!
片山:とにかく対外的な認知度を上げて、外からお金の流れを生まないといけないと思ってるんです。神戸のカレーを全国規模で有名にして、カレーを目的に神戸に来てくれる人が増える……というのが、やっぱり今の大きな目標ですね。
──う~ん、片山さんの行動力ならなんとかなりそうな気がします。本当に頑張ってください!
お店情報
神戸カレー食堂 ラージクマール
住所:兵庫県神戸市中央区北長狭通3-2-16営業時間:11:30~15:00(L.O.14:30) 定休日:月曜日。日曜日は営業
書いた人:しげる
ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊『ホビージャパン』にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、『ホビージャパンエクストラ』にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。
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