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旧南極観測船「SHIRASE」が宇宙船に! - 模擬宇宙生活実験がスタート (1) | TECH+ マイナビニュース マイナビ

元南極観測船「SHIRASE 5002」を火星に向かう宇宙船に見立てた「模擬宇宙生活実験(SHIRASE EXP. 0)」が、2019年2月23日から始まった。

日本では民間初となるこの実験には、「日本で最も火星に近い男」と呼ばれる村上祐資さんら4人が参加。16日間にわたって、さまざまなミッションをこなしながら共同生活し、長期の宇宙航行で人間が生活する方法や技術を検証する。

その目的、そして目指す先には、いったいなにがあるのだろうか。

閉鎖環境の中で暮らす方法を探る、日本初の民間による実験

スペースXの「スターシップ」の開発、そして米国航空宇宙局(NASA)による「オライオン」宇宙船や「月軌道プラットフォームゲートウェイ」の開発が進む昨今、火星への有人飛行は、少しずつではあるものの現実味を帯びてきている。

その実現にとって、ロケットや宇宙船を造ることももちろん重要ではあるものの、それと同じくらい、あるいはそれ以上に重要で難しいのが、「長期間の宇宙航行に人間は耐えられるのか」という問題である。

地球から火星までは、理想的な位置関係の場合でも、片道約半年はかかる。そしてふたたび位置関係が揃うのは約2年後まで火星で暮らし、そこから復路でさらに半年と、行って帰ってくるのに最低でも3年はかかる。その間、つねに数人の搭乗員(クルー)とともに、狭苦しい宇宙船や火星の居住区画の中で暮らさなければならない。そこで人間の体や精神になにが起こるのか、あるいはどうしたらそれが防げるのかなどは、まだわからないことが多い。

そうした問題点を洗い出し、そして解決法を探るために行われるのが、今回の「模擬宇宙生活実験(SHIRASE EXP. 0)」である。実験は、特定非営利活動法人フィールドアシスタントが実施する。同様の実験は海外の団体や宇宙機関などでも行われているが、日本の民間では初の試みだという。

同団体の代表・村上祐資(むらかみ ゆうすけ)さんは、1978年生まれの40歳。極地建築家として、人間と家とのかかわり、そして厳しい環境にある美しい暮らし方について探求を続けてきた。

また、2008年には第50次日本南極地域観測隊の越冬隊員として、日本の南極観測基地である昭和基地で15か月間にわたり、ミッション・スペシャリストとして地球物理観測に従事。2017年には、米国の火星協会(The Mars Society)が実施した、長期の模擬火星実験「Mars160」の副隊長として、米ユタ州ウェイネ砂漠のMDRS基地と、北極圏デヴォン島のFMARS基地で計160日間の実験生活を完遂するなど、さまざまな極地の生活を踏査してきた実績を持つ。

こうした経歴から、村上さんは「日本で最も火星に近い人物」とも呼ばれる。

今回の模擬宇宙生活実験は、村上さんを含む4人がクルーとして参加する。

ベンザ・クリスト(Venzha Christ)さん
インドネシア出身。ISSS(インドネシアの宇宙団体ISSS(Indonesia Space Science Society)理事。今回の実験では、コマンダー(司令官)を務めるほか、エンジニアも兼務する。
笠田大介(かさだ・だいすけ)さん
大学生。ツーリズム専攻。厳しい環境で、人間がどうやって暮らしていくかに興味があるという。今回の実験では、ミッション・スペシャリストを務める。
高階美鈴(たかしな・みすず)さん
大学生。フランス文学専攻。人と人がどうやって暮らしていくかに興味を持ち、今回の実験に参加したという。今回の実験では、写真や日誌などの記録を取る、ジャーナリスト役を担う。
村上祐資さん
今回の実験ではディレクターという立場でもあり、クルーの一人としても参加。クルーとしてはチームの副司令官、またクルーの安全と健康を担うHSO(Health & Safety officer)を務める。

模擬宇宙生活実験(SHIRASE EXP. 0)

今回の模擬宇宙生活実験(SHIRASE EXP. 0)は、2019年2月23日から3月10日までの、16日間にわたって行われる。

この実験で"宇宙船"となるのは、かつて日本の三代目南極観測船として、25回の南極観測をこなした「しらせ」である。

「しらせ」は2008年に退役したのち、現在は民間の気象情報会社ウェザーニューズなどが設立したWNI気象文化創造センターが保有する「SHIRASE 5002」として、気象観測や南極観測の広報活動などを行う場となっている。

同センターでは、外部からSHIRASE 5002の利活用案も募っており、そこにフィールドアシスタントの「模擬宇宙生活実験をしたい」という提案がうまく合致した。

実験では、SHIRASE 5002の内部を「宇宙船エリア」と「地球エリア」とに分ける。宇宙船エリアにはクルーの4人が滞在。このエリアの外を宇宙と位置づけ、閉鎖環境としている。

また、地球エリア内にある、機関制御室だった場所には管制室が置かれ、クルーとの交信を通じ、指示、支援を行う。管制官を務めるのは、栗原慶太郎さん(フィールドアシスタント事務局長)と、池田未歩さん(大学生)の2人。この2人で、2交代制シフトを組む。

宇宙船エリアのクルーとの交信の際には、6分間のタイムラグを設け、実際の宇宙船との交信を再現する。クルー同士の会話や、管制室との交信には英語と日本語を使う。また、医師による問診なども行う。

4人のクルーが滞在する宇宙船エリアは、2人で1部屋の寝室が2つのほか、食事や地球エリアとの交信を行うミーティング・ルーム、体力維持のためのエクササイズやトレーニングを行う部屋、倉庫、シャワー室などが設定されている。これらはすべて、過去に南極観測隊が使用していた施設である。ちなみに、窓はすべて塞がれており、太陽の光を浴びることは一切できない。

また、万が一に備えてつねに誰かが起きている必要があることから、3交代制シフトとなっている。1日のうち4時間だけ、4人が起きている時間が被ることになるため、その中で食事やレクリエーション、管制室との交信などを行う。とはいえ、それぞれの生活リズムが大きく違うため、その中でどうやってチームがまとまることができるかが、今回の実験の焦点のひとつとなる。

食事は、冷蔵庫などを使わなくても保存できるものを採用。ただし、いわゆる宇宙食ではなく、災害食やフリーズドライ、レトルトといった、簡単に手に入るものを使う。調理器具や食器類も、キャンプ用品のようなものもあれば陶器、紙製のものもあり、盛り付けの工夫などとあわせることで、食事に彩りを出す意図がある。

こうした工夫は、火星探査だけでなく、地震などの災害時における避難所生活へ応用したいという考えがあってのことだという。

1人が1日に使える飲み水は基本2リットル、予備として1リットルの、計3リットル。生活用水は、宇宙船全体で1日1回のシャワーが可能で、1人あたり4日に1回シャワーに入れる計算となる。

そして、船のエンジンなどが置かれていた機関室を船外、つまり宇宙空間に見立て、船外活動(EVA)の実験も行う。宇宙に出るためには当然、宇宙服が必要なので、今回の実験でも模擬宇宙服を脱ぎ着し、それを再現する。基本的にはペアで行動し、壊れた太陽電池の修理などを想定した船外活動を行う。

この模擬宇宙服は、もちろん実際に宇宙に出られる性能はないが、着るには誰かの助けを借りなければならないほど複雑で重く、また内部はほぼ密閉されるため、空調が必要となる。この空調のバッテリーは4時間しかもたないので、つまりそれまでに宇宙船エリアに戻ってこなければならないなど、実際の宇宙服を着たEVAとほぼ同じ体験ができる。

さらに、宇宙船に孔が開くといった事態を想定し、「レスキュー・ボール」と呼ばれる救命装備も用意。これは空気で膨らむ風船のような装備で、生命維持装置が組み込まれており、中に人が入って救助を待つ。

今回の実験では、宇宙服は2着、レスキュー・ボールは2つしかなく、またボールに入った人はなにもできないため、宇宙服を着たクルーは、仲間が入ったボールを担いで運ぶなどし、助けなくてはいけない。訓練のタイミングによっては、宇宙服を着る側とボールに入る側の立場が逆転することもある。そのときどう行動するのかを見るのも目的のひとつだという。

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