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一流ブランドの由縁とは? 吉田修一が語る【後編】 | カドブン

インタビュー

インタビュー、文=田中敏恵 写真=ホンゴユウジ

『悪人』『怒り』『国宝』――数多の賞を受賞し、世界的にも注目を集める吉田修一。芥川賞受賞から20年にわたり広告で描いてきた、単行本未収録の贅沢な作品集が本書『ブランド』だ。エプソン、エルメス、大塚製薬、サントリー、JCB、ティファニー、日産、パナソニック……錚々たる企業の依頼で描いてきた小説、紀行、エッセイを集めた本作に込められた思いとは? ※本記事は単行本『ブランド』に収録されているインタビューを再構成したものです。>>一流ブランドの由縁とは? 吉田修一が語る【前編】

吉田修一がデビュー当時から持っているもの


――男性作家ですが、エルメス・ピュイフォルカの銀食器やティファニーのジュエリーのように、マッチョじゃない世界のことも書かれてるっていうのも特徴かと思います。そこも吉田さんの個性のように思うんです。

吉田修一(以下吉田):ジェンダーやセクシャリティーのことは置いておいたとしても、昔から変な男の子っぽさは無いですからね。


――フラットなんだと思います。デビュー作である『最後の息子』(※注㈮)も、新宿二丁目で働くバーのママ・閻魔えんまちゃんと同棲している僕の話であるところから、ジェンダーに対してフラットでした。男っぽいとか女らしいとかじゃないところで人を見てるところがある。そういう視点がクライアントが求めている作家像に合うところがあるんじゃないかなと思うんですよね。

吉田:田中さんとはジェンダーがまたがっているところでもやらせてもらっていますよね。本書収録のティファニーの企画(※注㈯)でも男の子同士でジュエリーを買う場面がありました。


――はい。

吉田:ふたりでジュエリーを買う話でしたが、最初、難色を示されるかと思ったら、逆に評判が良かった。その打ち上げかなにかだったと思うのですが、田中さんが「もしかしたら、いつかティファニーで男の子同士のエンゲージリングみたいなのが出来るかも」とおっしゃったんです。5年以上も前です。もちろんその意見が直接届いたわけではないと思いますが、その後ティファニーが同性向けのラインを打ち出したじゃないですか。ああいうのは面白いですよね。


――あの広告のシリーズは、朝日の賞も獲りましたね(※注㉀)。ホリデーシーズンのジュエリーと言ったら、女の年末総決算みたいなところがあるじゃないですか。そこで男性に小説を書いてもらいながら、しかも女性の夢を入れ込むかと思いきや男性同士のカップルの話が出てきて、というような、結構思い切った作品も中にはある。そういう意味で本書は、吉田さんが持っているフラットさとか、『パレード』でも感じられる、読む人をまず最初に「なになに?」と思わせるちょっとしたサービス精神とか、吉田修一という作家がデビュー当時から持ってたものを象徴する、独特の立ち位置を持つ本といえそうですね。



日常を輝かせる瞬間


――今の時代は、そこそこなものを手に入れるのはすごく簡単だと思います。でも逆に心の底から良いものを見つけたり、楽しむことは難しい。SNSを筆頭とするメディアの多様化で口コミなども簡単に手に入ります。変なものをつかまされることも減ったでしょうが、逆に「私は本当にこれが欲しかった」っていうものを見つけるのが難しいように思います。つまりそれは、本当に楽しいと思える機会もなかなか無いってことだと思うんですよね。この小説に出てくる人たちは、自分なりの「本当に楽しい」を知ってる気がします。「それ最高じゃん」っていうような誕生日を過ごしてたりとか。

吉田:たしかに、そうかもしれませんね。誰かに見せたい幸せじゃなくて、誰にも見られなくていい幸せ。


――久しぶりに会った女の子とカフェに入って「近いよ」って言ったら「いいのいいの。いつも離れてるんだから」とか言われるの、楽しいだろうなぁって思いますもの(笑)。(※注㈷)

吉田:外連味というか、普段の小説だとなかなか書かないようなフレーズをわりと恥ずかしげもなく書いてますよね。


――「一番を知っている人」とは、一番良いものを知っているという意味と同時に、自分の一番楽しいことを知る人たちでもあるんでしょうね。で、そういう人たちを吉田さんは知っていたから書いている。

吉田:たしかに。そういう人たちには恵まれているかもしれない。


――自分の楽しみを知ってる人たちが周りにいて、そういうシーンにたくさん出会ってるから書ける。『悪人』じゃなかなか出せない描写を、こういう企画で出しているのではないでしょうか。人にはそれぞれ輝くシーンがある、そのシーンを外連味たっぷりに書くことは、ブランドと一緒の時間が与えたいことでもある。つまりとても大事な瞬間だから入ってるんではないでしょうか。

吉田:本当にそうかもしれないですね。惜しげもなく、手放しで幸せな瞬間を書いてますからね。たとえば、森山大道さんのことを書いてるじゃないですか(※注㉂)。手放しでこんなに人を褒めるとか、好きだと表現する文章というのはそうそう書かない。こういう、普段ならなかなか書かない描写が入っているんですよね。で、今話をしていて「そうか」と思ったんですが、やはりブランドはそんな幸せな一瞬のために存在するものだと思うんですよ。


――そうですね。

吉田:日常の幸せというか、それを輝かせるために存在するものが一流のブランドなんですよ。ということは、やっぱり今回の企画、この本は、一流のブランドが私たちに与えてくれる一瞬をちゃんと書けているのかもしれないですね。


――ですね。

吉田:まさにブランドってそれを象徴しているんだと思うんです。なんでもいいんですよ、すごく楽しくて、「あー今日は本当にいい夜だったな」という会食があったとして、その時のグラスがサンルイっていうだけで、何かが加わるんです。


――本当に。

吉田:デートに行きました。その時に着ていたりつけてたりするものがティファニーだったりエルメスだったりする。もちろんそうじゃなくてもいいんだけど、そうだった時のその瞬間に自分のことがいつもよりもっと好きになる。


――一瞬の輝き、大事で大事で宝石箱にしまいたいということ。下心の無い喜びですね。

吉田:そうなんですよ。下心の無い喜びなんですよ。遊んでる子どもたちが楽しそうに見えるのって、楽しいところを誰かに見てほしいわけじゃない。自分が楽しいから楽しい。でも大人って楽しんでるところを誰かに伝えたいし見てほしいのがあるじゃないですか。


――もっと言うと、楽しくないのに楽しいふりをするシチュエーションも多いですよね。そういうのに疲れちゃってると、純粋に喜べる一瞬がいかに貴重かっていうのはわかりますよね。また、SNSが成熟してきてみんなに発信しなきゃいけないようなプレッシャーの中にいると、自分の価値観や審美眼が大丈夫だろうかと不安になる人もいると思うんです。そうじゃなくていい、違っていてもいい、それぞれのきらめきはある、とこの本は言っているように思います。

吉田:そうですね、そのすべてがハッピーエンドってわけじゃないですしね。


――きらめきの引き出しみたいなものが、すごく多様な気がしますね。

吉田:だからさっきの、パークハイアット「を」じゃなくて、パークハイアット「で」もそうですけど、「じゃなくてもいい」っていうものを書かせてくれるんですよね。パークハイアット「を」書かなくていいっていうのは、パークハイアットでなくていいから、「ホテルという空間の素晴らしさを」書いてほしいということだと思うんです。一流ブランドというのはその辺を楽しむことなんだと思うんです。


ブランド著者 吉田 修一定価: 1,760円(本体1,600円+税)発売日:2021年07月30日


贅沢な作品集


――小説をレストランでたとえると、『悪人』を含め、ここ10年の吉田修一作品にはステーキのようなメインディッシュが多かったように思うんです。けれどここにあるものはメインではなく前菜のような存在。一方、ここ数年、前菜が10品ぐらい来て、それからメインというようなスタイルのレストランが注目されています。それは多分、そのほうが食材やテクニックをいろいろ使えるからだと思うんです。

吉田:なるほど。


――そういう意味ではここのところ話題となるレストランのように、作家・吉田修一のいろいろなテクニックを見せてもらっている本だなとも思いました。

吉田:吉田修一前菜集。


――はい。オーセンティックなフレンチですと冷たい前菜、温かい前菜、メイン、デザートみたいな4、5品で終わりますが、ずっと小さい面白いプレゼンテーションがたくさんあって、最後のメインとなるような……。ここ10年以上、吉田修一はほぼメインしか作ってない。魚だったり甲殻類だったり肉だったりジビエだったりするかもしれないけど、ほぼほぼメインだったんです。だけど『ブランド』は、世界中の気鋭のシェフが採用している、前菜のプレゼンテーションがいくつもあるスタイルによって、シェフの腕とテクの幅の広さみたいなのがいくつも散見できます。

吉田:だとしたら、この吉田修一前菜集を読んでいただいたあと、ぜひ『犯罪小説集』や『国宝』のようなメインを読んでいただきたいですね。実はこの本にある物語の中から、それこそメインな作品に発展していってるものも結構あるんですよ。


――2004年から2021年までの作品が収録という、こんなに長期にわたる作品が一冊にぎゅって入ってるっていうのも贅沢だし、能ある鷹ではないですけど、隠してた爪がたくさん出てるみたいなところも、とても贅沢ですよね。ブランドって贅沢なモノではなく、贅沢な物語や時間を提供している、という話がありましたが、この本もまさにそんな存在だと思います。

吉田:ありがとうございます。この本を読んでいただいた読者の方が、「そういえば、私にもこういう幸せな瞬間があったな」なんて、ふと何かを思い出してもらえたりすると、本当に嬉しいですね。


吉田修一さん(左)とインタビュアー田中敏恵さん(右)


※注㈮1999年刊行のデビュー短編集。97年文學界新人賞受賞の表題作を収録。※注㈯『ブランド』収録「ティファニー2012」。2014年には角田光代氏とコラボの小説を発表している。※注㉀「ティファニーとともに幸せな週末を」シリーズ。2012年度朝日広告賞くらし部門賞受賞。※注㈷『ブランド』収録「東京湾景202×」。日産自動車とのタイアップで書いた2003年刊行の『東京湾景』の後日譚。※注㉂ 『ブランド』収録「THE BAR」の中の「B BAR MARUNOUCHI」に記述。

作品紹介



ブランド著者 吉田 修一定価: 1,760円(本体1,600円+税)発売日:2021年07月30日詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322012000535/amazonページはこちら


吉田修一(よしだ しゅういち)

1968年長崎県生まれ。97年「最後の息子」で文學界新人賞を受賞し作家デビュー。2002年『パレード』で山本周五郎賞、同年「パーク・ライフ」で芥川賞を受賞。07年『悪人』で毎日出版文化賞、大佛次郎賞、10年『横道世之介』で柴田錬三郎賞、19年『国宝』で芸術選奨文部科学大臣賞、中央公論文芸賞を受賞。著書に『ルウ』『怒り』『女たちは二度遊ぶ』『犯罪小説集』『逃亡小説集』『湖の女たち』など多数。

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